「宿坊 妙光寺」(福井県坂井市丸岡町石城戸町)が5月10日、同市の丸岡城近くにオープンした。
同会が運営する、城ファン拠点施設「城小屋マルコ」(坂井市丸岡町霞町)。城下町巡りの拠点として位置付ける
宿坊は一般宿泊客を受け入れる寺院を指し、市内の一般社団法人「丸岡城天守を国宝にする市民の会」が運営する。2018(平成30)年3月、同会が策定した「丸岡城周辺賑(にぎ)わいのまちづくりビジョン」事業の一環で、翌年、福井県が募集した「“ワクワク・ドキドキ”新幹線開業アイデアコンテスト」入賞による補助を受け整備を進めた。
料金は、素泊まり限定で1人1泊6,000円。客室には会食などで使っていた8畳間を主に充て、洋式トイレや浴室も設ける。受け入れは1日1組、一度に6人まで。同会の橋本健二さんは「1日1組限定なので、ほかの宿泊客に気兼ねすることなく泊まってもらえるのでは」と、子育て層にも利用をアピールする。
町内の飲食店を利用してもらおうと、素泊まりのみのプランのみとした。市内の飲食店に、地産地消や特別感などを盛り込んだ「お殿様御膳」「お姫様御膳」のメニュー考案を依頼するなど付加価値向上に知恵を絞る。「ビジネスホテルに比べて割高な印象を受けるかもしれず、祈祷や城下町を巡る自転車ツアーなど、アクティビティーの充実を図っていきたい」と橋本さん。
大濃孝尚理事長によると、丸岡城周辺は宿泊施設がもともと少ない土地だったという。「よく耳にしたのは行商向けの宿で、一般向けはあまり多くなかった。少し足を伸ばした所にあわら温泉があり、一般向けの宿を開く必要性がなかったのだろう」。観光客の丸岡城滞在時間は40分ほど。天守のライトアップ観賞や夜の飲食店の利用など、夜間の交流人口増がかねての課題となっていた。
宿泊施設を増やすといってもホテル誘致は現実的でなく、同市丸岡地域に19カ所ある寺院を宿坊とする案が浮上した。約400年前に造営された記録があるという同寺の永沢海成(えいざわかいせい)住職は「檀家も年を追うごとに少なくなり寺の継続も危ぶまれている。丸岡の人たちのためになればとも考え、檀家の理解を得て協力することを決めた」と話す。
永沢住職は、宿坊が仏教に関心を持つ機会につながることにも期待を込める。「仏教の話が基となって子や孫の世代に変化が起こり、自分の菩提寺(ぼだいじ)を大切にする心が芽生えるとうれしい」。観光客だけでなく地元住民にも広く門戸を開き、「仏教離れが言われる中、寺に関わってもらうきっかけにもなれば」と話す。
関係者はコロナ禍の中でのオープンをプラスに捉える。「今は宣伝のための期間。アクティビティーを整備し、チラシやホームページなどで告知を展開していきたい」と橋本さん。観光庁が進める「城泊(しろはく)・寺泊(てらはく)」事業を追い風に、宿坊に賛同する寺院を増やす計画で、「いつか丸岡が『宿坊のまち』と呼ばれるようになれば」と笑顔を見せる。