福井駅東の複合施設「AOSSA(アオッサ)」(福井市手寄1)で6月17日、トークイベント「0を1にする スポーツ小説ができるまで」が行われた。
壁井さんが「自分自身との脳内ブレーンストーミング作業」と紹介した、小説の下書きに見入る来場者
同施設内にある福井市立桜木図書館と、福井県書店商業組合福井支部が「2018 福井国体・障スポ」文化プログラム事業の一環として共催。福井を舞台にしたスポーツ小説「2.43 清陰高校男子バレー部」「空への助走」などを手掛ける作家の壁井ユカコさん(長野県出身)と、集英社(東京都千代田区)で同小説の編集を担当する伊礼春奈さんをゲストに招いた。
イベントは14時に始まり、福井在住のフリーアナウンサー「さかいちよみ。」さんのMCの下で進行した。会場には約150人が集まり、壁井さんの著書を開きながら耳を傾けたり、熱心にメモを取ったりするファンの姿もあった。
壁井さんによると、バレーボールを題材にした小説の構想を明かしたのは2011年6月ごろ。「当時の担当編集者に相談をしたところインターハイ取材の機会に恵まれ、生で見る男子バレーのかっこよさに目を奪われた。地方都市にある高校のチームを舞台にすると決め、夫の出身地である福井が思い浮かんだ」と振り返った。
下書きの重要性についての話もあった。壁井さんは「バレーボールにはローテーションがあり両チームのフォーメーションが刻一刻と変わる。攻守の矛盾点が生じないようにしつつドラマ性を盛り込めるよう、パソコンで執筆を始める前に思いつく限りのアイデアを書き出す」と解説した。
伊礼さんは「私の知る範囲でここまで下書きをする作家は初めて。しかも壁井さんは全て手書きで、試合の流れを事細かに書き出すという作業量にも驚く。脱稿後の著者校正でも細やかな調整を加えるなど、魅力的な物語を読者に届けたいという熱意にあふれている」と、壁井さんとの二人三脚ぶりをのぞかせた。
来場者からの質疑応答もあり、躍動感あふれる描写のコツを問う質問に、壁井さんは「デビュー当時の担当編集者から五感を大切にすることの重要性を教わった。人間は物事を感じるときに五感を働かせる順番があり、その過程を意識して類語辞典なども参考に表現を書き出してみると描写の幅が広がるのでは」とアドバイスした。
同館職員によると、関東や中国地方など遠方からの来場もあったという。同市内から訪れたという40代女性は「『2.43』シリーズが大好きで、受け付け初日に参加を申し込んだ。自分自身の高校時代を思い出させてくれる福井弁のやりとりが作品の魅力。下書きの話を聞き、物語の裏にある緻密な組み立てに驚いた」と話す。
壁井さんは現在、「2.43」シリーズのサードシーズン「春高編」を同社ウェブサイト「RENZABURO」で連載中。夏に単行本化を予定する。