5月13日、在宅医療をテーマした映画「いのちの停車場」を手掛けた成島出(いずる)さんが福井を訪れた。
「いのちの停車場」は、医師で作家の南杏子さんが2020年に出版した小説。ある事情から東京での救命救急医を退き、故郷・金沢の訪問診療医に転身した白石咲和子(さわこ)を主人公に、老老介護、終末期医療、積極的安楽死など日本の医療を取り巻く諸問題を描いていく。
ストーリーは咲和子の新たな職場である「まほろば診療所」を舞台に展開。出演者陣に、咲和子を演じる吉永小百合さんのほか、西田敏行さん、広瀬すずさん、松坂桃李さん、みなみらんぼうさん、小池栄子さん、泉谷しげるさん、伊勢谷友介さん、石田ゆり子さん、柳葉敏郎さん、南野陽子さん、田中泯さんらが名を連ねる。
成島さんは同日、テアトルサンク(福井市中央1)で行われた舞台あいさつに合わせて来福した。「『いのちの停車場』は命が燃え尽きる時の大切さや美しさを描いた作品。コロナ禍により、愛する人の手を握り最期をみとるという、ごく普通にできていたことが当たり前でなくなった今日。医療崩壊も叫ばれる中での公開は全くの偶然で運命的なものを感じる」と話す。
2012(平成24)年日本アカデミー賞最優秀作品賞受賞作「八日目の蝉」、前後編の大作となった「ソロモンの偽証」など過去にも小説を原作とする作品を手掛けた。「娯楽性が伴っていてこその映画であり、映像化に当たってはメッセージ性との両立に気を配る」と成島さん。本作は吉永さんが初めて医師役に挑む映画で、「吉永さんの成長物語でもあり、さらに高みを目指す姿が同世代の背中を押すことにつながれば」と期待を込める。
十数年前に父をみとった時の記憶や、自らのがん闘病の経験も作品の世界に投影した。「難治といわれたがんの手術を終えた時にとてもきれいな朝日に出合い、『世界はなんて美しいんだろう』と感動したのを覚えている。10年前にこの映画を作っていたら積極的安楽死のエピソードを盛り込むことはなかっただろうし、ラストシーンの描き方もきっと変わっていたのでは」
緊急事態宣言による休業要請などを受け、都市部を中心に映画業界は苦戦を強いられている。成島さんは映画館が消防法に基づき運用される施設であることを引き合いに、「しばらく劇場から遠ざかっている方も、これを機に大きなスクリーンで映画を見ていただければ」と呼び掛け、「松坂さんや広瀬さんという『もう一つの主役』が新たな希望を感じさせてくれる作品でもあり、彼らと同世代の人たちにも共感してもらえるのでは」と話す。
5月21日公開。福井では同館のほか、福井コロナシネマワールド(福井市)、鯖江アレックスシネマ(鯖江市)で上映。