福井市内に11月11日、チーズ専門店「ハッピーチーズ」(福井市中央1)がオープンした。
閉店後「1日の仕事お疲れさま」とチーズに声を掛け、新しいラップで包み直す高橋さん
店舗面積は5坪。「モン・ドール」「ブリヤ・サヴァラン」(仏)、「パルミジャーノ・レッジャーノ 36カ月熟成」(伊)、「ケソ・デ・バルデオン」(スペイン)など、ヨーロッパ産のナチュラルチーズ約25種を量り売りする。客の好みに応じてチーズ5種を盛り合わせる「ちょい盛りセット」(1,080円)もある。
店主の高橋かず子さんがチーズの面白さに目覚めたのは4年前。同市にあるレストランでのワイン会に誘われたのがきっかけだった。「次々出されるチーズの味わいが、心身ともに疲れ切っていた自分を癒やしてくれた。チーズが場を華やかにする力を持っていることにも感動した」と話す。
チーズの奥深さをより知りたいと、チーズを豊富に扱う同市内のバーに通い詰めた。「勧められるままいろんなチーズを試した。そのうち、味わいと分かち合いの関係に気付いた。どんなにおいしい食べ物も一人で食べるのでは魅力が半減する」。チーズの楽しさをだれかと共有したいと、手弁当でのチーズ会開催を決めた。
バーに通い詰めたとはいえ、高橋さんいわく「お酒は好きだけどそれほど強くない方」。アルコール抜きでチーズを楽しみたいとの気持ちも活動の原動力になった。クーラーボックスにチーズを詰め込み、大野市や坂井市、越前市など近隣のまちへ出向いた。レストランやカフェなど「ここぞ」と感じた店に遭遇するたび、店主にチーズ会開催を直談判した。
「チーズ会を主催するからには、お勧めの言葉や目利きにも裏付けが欲しい」と資格取得にも励んだ。NPO「チーズプロフェッショナル協会」(東京都千代田区)が行う「チーズ検定」受験に向け、輸入チーズが多く流通する都市部に短期移住。大阪のチーズ仲間と勉強会を重ねたり、チーズ専門店「フェルミエ」(東京都港区)で研修したりと、テイスティング(実食試験)の舌を鍛えた。2012年10月、一発合格で同協会の認定資格を得た。
活動を通じて福井県内に「チーズ好きの輪」が広がり、自宅で珍しいチーズを楽しみたいとの声が多くなった。「チーズはネット通販でも手に入るが、試食した上で好みのものを買うのが理想の楽しみ方。拠点を構えれば『気軽に試食に来てね』と言えるし、おいしいチーズを店で出したいと考える飲食店の力にもなれる」と高橋さん。
今年初めまで店を出す気が全くなかったのは、各地でのチーズ会を開きづらくなる懸念があったからだというが、JR福井駅周辺の市街地活性化に取り組む人々と出会い、考えを切り替えた。「県外の知人に『駅前に何もない』と驚かれて悔しかったことを思い出した。特徴ある店が増えれば、再び駅前に人々が戻ってきてくれるはず」。自分なりにまちづくりに貢献したいと腹を括ったという。
開店資金の一部は、「まちづくり福井」(福井市中央1)が行う「中心市街地開業促進事業」の補助金を使い、店舗工事には同店近くの建築設計事務所「小笠原弘建築計画」(福井市中央1)の協力を得た。高橋さんは「人とのつながりで生まれた『流れ』に押されここまで来られた。補助金や店舗設計の縁も全て『流れ』。1年前には全く想像していなかった展開」と振り返る。
10月下旬、プレオープン告知をフェイスブックに載せた所、400を超える「いいね!」が付いた。早耳のチーズ好き同士が、店頭で「久しぶり!」と言葉を交わす場面にもしばしば遭遇した。「チーズ会でみんなが『おいしい』と満足してくれて、会に参加した人同士が仲良くなるのを見るだけで感激する。人々のつながりに喜びを見いだす、根っからの裏方体質だと思う」。
今後、キッシュやチーズケーキ、クリームシチューなどチーズを使った料理を扱う予定。「ケーキ屋のようなチーズケーキはできないが、チーズ屋ならではのチーズケーキならつくれるはず」と高橋さん。「チーズ道」へ導いてくれたワイン会を振り返り、「チーズは私の命を救ってくれた存在。私の選ぶチーズをおいしいと言ってくださる方がいる限り店を続けたい」と笑顔を見せる。
営業時間は、11時~19時。チーズ会などのイベントやセミナー開催の相談も受け付ける。