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福井・鯖江に金継ぎ工房 元蔵人、伝統技術継承に新たな挑戦

駒本さん(中央)を囲んで。薮下さん(右)と、娘の小春さん(左)

駒本さん(中央)を囲んで。薮下さん(右)と、娘の小春さん(左)

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 福井県鯖江市に10月18日、金継ぎなどを手がける工房「うるしの駒や」(乙坂今北町)がオープンした。

金継ぎ作業中の薮下さん。「ゆくゆくは自分で開発した商品の販売もできれば」とプランを描く

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 金継ぎは、ひびが入ったり欠けたりした器を漆で接着し、接合部分に金粉をまいた後に磨いて仕上げる修復技術。物を長く使い続けるというSDGsの観点からも近年注目されている。店主の薮下喜行さんは「金継ぎの歴史は戦国時代の茶の湯の時代にまでさかのぼり、修復された器は時に、完品以上の価値を持つものとされた」と説明する。

 薮下さんは福井県内の酒蔵で酒造りや営業企画などに携わった経歴の持ち主。商品パッケージの企画などを通して越前和紙など地元の職人らとの交流もしばしばあり、かねて伝統工芸への関心を抱いていたという。

 娘の小春さんが学生時代に志願したインターンシップを機に、市内の「駒本蒔絵(まきえ)工房」(莇生田町)と縁ができたことも背中を押した。金継ぎなど「繕い」をテーマにした美術展の鑑賞や、金継ぎワークショップ参加などの機会にも恵まれ、開業への思いが募っていった。

 「毎日生き生きした表情で家に帰ってくる娘の姿に刺激を受けた。私も学生時代に民族学を研究した経験があり、地域の素晴らしい文化を次の世代につなげねばという使命感に駆られた」。26年間勤めた酒蔵を退職しようと決め、開業準備を進めた。

 駒本蒔絵工房の伝統工芸士・駒本長信さんに手ほどきを受けた金継ぎ技法を軸に事業展開し、ウェブサイトを通じて全国から修復依頼を受け付ける。同工房との業務提携も結び、オリジナル図案や、飲食店のロゴマークなどを配したオーダーメード蒔絵の注文も受ける。

 仕事場を構えるのは、漆器、和紙、陶器、眼鏡などのものづくり企業が集まる福井県丹南エリア。福井県立大の大学院生でもある薮下さんは、研究領域として据える産業クラスターを引き合いに「実践の伴った研究を志したことも開業を決めた理由の一つ。効率一辺倒の世の中で、一手間かけた器で食を味わうという心の豊かさにつながるものづくりができれば」と力を込める。

 事業の一環として金継ぎの普及活動も掲げ、2023年1月には「私設図書館つぐみ」(本町2)で全2回の金継ぎワークショップを予定する。

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