福井駅東の複合施設「AOSSA」(福井市手寄1)で3月20日、同市出身の作家「裕夢(ひろむ)」さんのトークショーが行われた。
会場に展示された「チラムネ」シリーズ。3月21日14時から、裕夢さんが出演する「チラムネ×福井 オンラインツアー」がユーチューブでライブ配信される
同市を舞台にしたラブコメディー小説「千歳(ちとせ)くんはラムネ瓶(びん)のなか」(小学館ガガガ文庫)の作者を招いたイベントで、福井県書店商業組合福井支部と福井市立桜木図書館が主催。福井駅西のセレクト書店「HOSHIDO」(中央1)店主・佐藤実紀代さんとの対談形式で、受講申込時に寄せられた質問に裕夢さんが答える形で進行した。
物語は市内にある架空の「藤志(ふじ)高校」を舞台に、「超絶リア充」の主人公・千歳朔(さく)や朔を取り巻くヒロインたちとの青春ストーリーがつづられる。同市を舞台にした理由について、裕夢さんは「福井は『(暮らすのに)不便』『何もない』などと言われるが、自身の高校時代を思い返すと、不便だからこそ友人と語り合う時間が増えたり、田んぼ道を自転車で駆け抜けたりという『エモい』体験があった。田舎ならではの青春のエモさを小説にできればと考えた」と振り返った。
ファンから「チラムネ」の愛称で親しまれる同作は裕夢さんのデビュー作。宝島社「このライトノベルがすごい!」誌2021年・2022年版で1位を受賞し、デビュー作として同誌初の2連覇となった。作品には、物事に熱中したいと思っている人たちへのエールも込めているという。
「SNSが日常のものとなり、若い人たちの間に『目立ったり失敗したりしてSNSで叩かれないように』という控え目な空気が広がっているように感じる。失敗の瞬間も格好いいと感じてもらえる主人公を描くことで、『失敗してくすぶっていたが、めげずに頑張りたい』と思っているような人たちの気持ちにも寄り添えれば」と裕夢さん。
シリーズは3月18日発売の6.5巻が最新刊。執筆前に作成する「プロット」についての質問では「プロットはふんわりと作る程度」とした上で、「『読みたい小説を自ら書く』というのが小説を書き始めた動機。私自身が一番最初の読者であるために、作為的に登場人物を動かすようなことはせず、『最後に朔が何とかしてくれる』という気持ちで執筆している」と話した。
シリーズに登場する5人のヒロインの「推し」に関する質問もあり、「完全に(全員が好きな)箱推し」という回答に会場が和んだ。「読者が推しを絞り込めず、最後まで推しを決められないような物語を書きたかったという思いがある。女性読者にも『かわいい』でなく『格好いい』と感じてもらえるよう、それぞれに芯のある5人のヒロインを考えた」と明かした。
現在、作品の舞台である福井市や、作中に登場するショッピングセンター「エルパ」(大和田2)などとのコラボレーション事業も展開されている。裕夢さんは一連の事業に感謝し、「小説を書き始めた当初の志を忘れずに、自身が一番面白いと思える作品を書き続けていきたい。最大のライバルは前の巻を書いた時の私自身」と力を込めた。
会場には、市政広報、チラシ、ホームページなどでの告知に応じた10代~60代のファン約40人が県内各地から駆け付けた。あわら市から訪れた40代男性は「作品の人気が高まり福井を訪れるファンも増えている。『聖地巡礼』してくれる人たちを迎える立場として、ファンの一人としておもてなしの向上に貢献できれば」と話した。