福井県越前市にある辻田漆店(TEL 0778-42-1034)の開発した「うるしの積木」が現在、優良なおもちゃを発掘する専門家の注目を浴びている。
「グッド・トイ2014」認定証を手に「息の長い商品に育てたい」と話す辻田さん
同社は江戸末期創業の老舗漆店。原料調達から製造販売まで一貫して行い、取引先も北海道から沖縄まで広範囲にわたる。同社専務の辻田猛さんによると、同様の業態は「全国を見渡しても10軒ほど」という。
福井県鯖江市の調べによると、漆器製造品出荷額等は1991年の約1,400億円をピークに右肩下がりが続くなど、漆器産業を取り巻く環境は厳しい。そこで同社も、5年ほど前から「漆器以外の物を通じて漆塗りを身近に」と名刺入れやカバン、装飾用シートなどの企画や販売に取り組んでいる。おもちゃの開発もその一環だ。
辻田さんが漆塗り積み木に着目したのには理由がある。「自然素材を使ったおもちゃは多い。ただ、無塗装の白木を使った物が多く『水洗い厳禁』と注意書きがあるケースも少なくない。漆で仕上げれば漆器のように洗うことができ衛生的。商機があると考えた」
開発に掛かったのは2012年。だが、積み木は部品の寸法が小さく形もさまざま。安全性を確保するため面取りなど細部の手作業も多い。製造を受けてくれる工房がなかなか見つからなかった。
ここで全国に取引先を持つ同社の強みが生きた。岐阜県高山市にある「春慶(しゅんけい)塗」の取引先を訪れた際、現地の家具工房に飛び込んだ。幸運にも快諾を得て、積み木の木地に飛騨産ヒノキを使うことが決まった。
同工房で加工された木地は同社に送られ、福井県内の漆器職人による塗りと研ぎを経て商品となる。辻田さんは「職人さんは『面白い仕事を持ってきてくれた』と喜んでくれる。子どもたちの顔を思い浮かべ、楽しみながら仕事しているのが伝わってくる」と笑みをこぼす。
商品は、漆の風合いを生かした「生漆(ki-urushi)」と、6色の漆を使った「色漆(iro-urushi)」の2種。約26センチ四方のケースに27個の積み木が収まる。ケースを額縁風に仕上げインテリアとして楽しめるようにしたのは同工房のアイデアだ。
安全性への配慮やロングセラーの可能性が買われ、6月にはNPO法人日本グッド・トイ委員会(東京都新宿区)が選ぶ「グッド・トイ2014」の一つとなった。辻田さんは「伝統工芸の技術を生かした『グッド・トイ』は初めてと聞いた。洗って清潔に使えるという実用性も評価されたのでは」と話す。
受賞を機に「出産祝いに」と直接購入に訪れる客も増えつつあるが、辻田さんいわく「本格的な販路開拓はこれから」。選定を弾みに、おもちゃのセレクトショップや家具店、雑貨店などへの売り込みを行い、年間500セットの出荷を目指す。
価格は2万9,160円。同社ホームページで通信販売も受け付ける。