若狭三方五湖観光協会(福井県若狭町)が製作した観光ポスターが、日本観光振興協会(東京都港区)主催の「第63回日本観光ポスターコンクール」で入賞した。
「途切れた道が、教えてくれたこと。」のキャッチコピーが付けられた同ポスターは、2013年9月の台風18号で寸断された県道216号線の復旧告知を目的に製作したもの。同県道は同町内の常神半島を縦断する主要道で、「多くのみなさんに支えられ、道は復旧を遂げました」「県道216号線は、常神半島が終着点であり、始発点でもある道」などのボディーコピーが添えられている。
同協会の藤内寿博さんは「災害に気後れせず復旧に注力する生活者の元気を描きたかった。寸断された県道は、全ての道につながる旅の発着点でもある。その気付きを『観光客にとっての価値』に転化するのも復旧宣言の要件だった」と話す。漁業や観光業など地域産業を支える海と住民の笑顔をメーンにする構成を決めたという。
デザイン担当は同町在住のグラフィックデザイナー・大谷直子さん。大谷さんは同協会から相談を受け、福井市在住のカメラマン・たとり直樹さんと、コピーライター・野中靖浩さんに声を掛けた。大谷さんが被災地のボランティアセンターで受け付けをしていた際、泥出しボランティアで訪れたのが2人だった。大谷さんは「被災現場を見ている経験がポスターの持つ説得力につながると思った。ぜひ2人にお願いしたかった」と振り返る。
写真撮影は同年11月1日、同半島にある神子漁港で行った。地域住民に事前告知をした所、10時のサイレンと共に漁師や中学生などが多数集まったという。大谷さんは「撮影では『若狭に遊びに来てね!』という気持ちを込めて、元気に手を振ってもらった。漁師さんがえさをまいてくれたおかげで、カモメにも上手に飛んでもらえた」とブログにつづっている。
ポスターはA1判300枚を印刷し、同町内の公共施設、県内外の観光施設、台湾の旅行社などに掲出した。直後からSNS上で「胸が熱くなって泣きそう」「土地の空気や人の素朴さがにじみ出ている」「若狭、行きたい!」「私も頑張らなくては」などと話題になり、同協会にも激励の電話や手紙が多数寄せられたという。
藤内さんによると、「当協会にとって初の応募」という同コンクールには全国から197作品が寄せられ、49作品が一次審査を通過。今年2月~3月のオンライン投票や、専門審査員の採点や推薦などを経て、「審査員特別賞」を受賞した。専門審査員のグラフィックデザイナー・左合ひとみさんも同ポスターを推したという。
藤内さんは「災害というネガティブな題材と、道の復旧という極めてローカルな出来事。2つを強く発信することで、県内に住む人々が『生活者こそ主人公』と認識できたのでは」と話し、北陸新幹線金沢開業や今夏予定の京都縦貫道開通などの話題にも触れ、「若狭周辺の交通インフラ整備が飛躍的に進んでいる。受賞を弾みに、県域を越えた観光誘客に力を入れたい」と意気込む。
主催者のホームページでポスターのPDFファイルを閲覧できる。