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福井出身の大学教員が学術書 「ひきこもり当事者の理解に」、自身の体験交え

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 福井出身の大学教員が執筆した学術書が3月、晃洋書房(京都市右京区)から出版された。

 書名は「『ひきこもり当事者』の社会学-当事者研究×生きづらさ×当事者活動」で、現在、長崎県立大学地域創造学部講師を務める伊藤康貴さんが執筆した。大学時代の卒業論文を加筆修正した「『ひきこもり』の自分史」、当事者活動や自助グループの調査研究などに基づく「『ひきこもり』の当事者活動を考える」など4つのパートで構成する。

 伊藤さんは1984(昭和59)年永平寺町生まれ。永平寺中から藤島高(福井市)に進学したが、進路指導の方針や教員になじめず体調を崩し、中退した。通信制高校に再入学し大学入学資格を取得したものの、ネットの匿名掲示板で高校中退者を「社会的不適合者」などとする書き込みを見るにつけ、人と会うのが怖くなり、昼夜逆転のひきこもり状態になっていったという。

 「それでも高校は卒業したい」という思いから大阪の昼間定時制高校に進学し、それと前後するタイミングでひきこもり当事者によるブログの記事に触れた。「匿名掲示板のようなネガティブな書き込みではなく、当事者が自ら批評的に情報発信している様子を目の当たりにした。自分が感じていた生きづらさを俯瞰(ふかん)的な視点で理解することにもつながった」。伊藤さんは振り返る。

オンライン取材に応じる伊藤さん。伊藤さんによると「社会学的観点からのひきこもり当事者研究はあまり例がない」という

 社会学的アプローチからのひきこもり論に触れるうち社会学や社会調査に関心が湧き、大阪商業大に進学した後、関西学院大へ編入した。この頃にはひきこもり状態を脱し数年たっていたが、当時のことを明かすことができないことへの葛藤は感じたままで、「隠しているから恥ずかしいのだ」という思い切りから、自身のひきこもり体験を卒業論文のテーマにしたという。

 伊藤さんはその後、同大大学院を経て現職に就いており、同書を進路の多様性を示唆する書籍としても位置付ける。「進路に関わる情報が限られる地方のまちでは特に、周囲の大人の『人生とはこうあるべき』という言説に縛られる若者も多いのでは。人の生き方は1本のレールで表せるものではなく、探せばさまざまな道がある」と呼びかける。

 同書が社会学的観点からの後続研究のきっかけとなることを期待する一方、ひきこもりの家族と共に暮らす人や、自助グループ活動に関心を寄せる人など、一般読者にも手に取ってもらうことを伊藤さんは願い、「1人の人間の経験記を通して、ひきこもりの人が抱える生きづらさのメカニズムを知る手がかりになれば」と話す。

 仕様はA5判、320ページ。価格は3,080円。

 


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