福井の眼鏡産業の草創期を描く映画「おしょりん」の撮影が現在、福井県内で行われている。
原作は明治時代後期、現在の福井市生野町で眼鏡産業の礎を築いた増永五左衛門・幸八兄弟らの奮闘を描いた小説で、2016(平成28)年、京都在住の藤岡陽子さんが出版。「おしょりん」とは、田んぼやあぜ道などが凍り付いた一面の雪で覆われた状態を指す方言で、作中、五左衛門らが掲げる眼鏡枠作りの象徴などとして引き合いに出される。
映画化は、2024年春予定の北陸新幹線福井・敦賀開業による観光誘客も見据えたプロジェクトで、県内の企業や団体などで制作運営委員会を構成する。えちぜん鉄道アテンダントの活躍を描く映画「えちてつ物語」を手がけた児玉宜久さんがメガホンを取り、ドラマ「てっぱん」「ゴシップ #彼女が知りたい本当の〇〇」などを手がけた関えり香さん(越前市出身)が脚本を執筆した。
主演の増永むめ役に北乃きいさん、夫の五左衛門役に小泉孝太郎さん、幸八役に森崎ウィンさんをそれぞれ起用。福井出身の俳優陣も出演し、津田寛治さん(福井市出身)が大阪から来た眼鏡枠職人、酒井大地さん(越前市出身)が増永一期生の職人、大工から眼鏡枠職人に転じた増永末吉の妻・小春を高橋愛さん(坂井市出身)がそれぞれ演じる。
福井県内でのロケは4月上旬から本格的に始まり、16日、越前市にある重要文化財「旧谷口家住宅」(余川町)での撮影が始まった。17日は末吉と小春の子・ツネが初めて眼鏡をかけるシーンなどの撮影が行われ、現場を訪れた杉本達治福井県知事や山田賢一越前市長が出演者らを激励した。
杉本知事が「『おしょりん』は福井の一大産業の礎と共に骨太の人間ドラマを描く作品。公開後、多くの人たちが映画館で涙を流す姿や、皆さんが映画賞を総なめする様子が目に浮かぶ」とエールを送ると、児玉監督は「福井県人が持つ魂を、日本全国ひいては世界中の人に届けるべく丁寧に作っていきたい」と応えた。
出演者に若狭塗の箸、県産米「いちほまれ」、越前打刃物の包丁など記念品の贈呈もあり、杉本知事から「北乃さんの手の大きさに合うように箸を選んだ」と説明を受けた北乃さんは「とてもきれいで使いやすそう」と笑顔を見せた。
この日は天候にも恵まれ、見物に訪れた市民ら約50人が映画製作の様子を見守った。同地でのロケは、撮影休日を挟み23日まで行われる予定。
全国公開は2023年秋を予定する。