同団体を率いるのは福井県美浜町在住の北山大志郎さん。同町にある建設会社の社長でもある。以前から空き家対策には関心があり、2010年には空き家や休耕地を管理代行するサービス「ふるさと見張り番」を始めた。
古民家(=築年数50年以上)や中古住宅の市場動向もつぶさに見てきた。しかし、北山さんは「空き家には資産的価値がほとんど無いといってよく、不動産業者としても扱いづらい現状がある」とリノベーションの事業化には二の足を踏んでいた。
空き家を「今どきの生活に合わせる」リノベーションは時として新築以上の費用がかかる。結果、古民家や中古住宅は家選びの選択肢に入らなくなり市場も活性化しない。事業化を踏みとどまっていた北山さんも、「空き家の状況把握や再生に欠かせない伝統的な建築技術が廃れる」と危機感を抱いた。
そこで北山さんはSNSなどを通じて自身の思いを表明。「古い物を自分たちの手で再生していきたい」と、大工やデザイナー、建築士、3DCADオペレーターらの賛同者が現れた。昨年8月のことだった。
続いて活動拠点の整備に取り掛かった。「古民家を自分たちでリノベーションして、モデルハウスの機能も持たせたい」とメンバー間で話がまとまった。物件探しを始めて程なく、知人を通じて「敦賀市に売り物件があるがどうか」と紹介を受けた。
紹介してもらったのは、同市横浜にある1949(昭和24)年築の古民家。延べ床面積約200平方メートル、木造2階建て。戦後に医院として建てられ廃業後は親族の住まいになっていたが、その親族も亡くなり2年ほど売りに出されたままだったという。
かつての診察室。農作業の作業着のまま診察を受けられるよう、診察室の一部が入口から続く土間となっていた
売買交渉を進めるうち「地域のためになるなら」と土地・建物とも無償で引き受けられることになった。「更地引き渡しの話も出たが、解体費用はざっと見積もっても300万円。かといって放置が続けばオーナーの税負担が避けられなかった」。双方のメリットが一致しての無償譲渡となった。
譲渡をきっかけに、地区住民から同物件にまつわるエピソードを聞いた。そもそも同地区は無医村で、同市中心部で開業予定の医師を招き入れたという経緯があった。住民の期待は大きく、同物件は地域コミュニティーの核としても機能していたという。
工事は今年1月にスタート。工事中にも当時のエピソードを裏付けるような出来事があった。「土壁材料を運んでもらったり、完成直前まで放置状態だった庭の雑草をきれいにしてもらったりした」。多くの協力の下、5月上旬、同団体初のモデルハウス「朱種」がオープンした。
2階は改装で天井板を外し梁(はり)をむき出しにした
朝日や夕日が望める立地と「ここから自分たちの活動を種まきする」との意味を込め「朱種」と名付けた。リノベーションでは「古い雰囲気と新しいものの同居」とのコンセプトから、カフェ風の照明や厨房(ちゅうぼう)機器を導入。同団体が目指す「古民家+モダン」を体現した内装となった。
カフェをイメージして作られた1階の多目的スペース
メーンターゲットとして想定するのは30~40代の子育て世代。北山さんは「子育て世代の間で古民家住まいへの関心が高まっている感触はある。しかし、気密性や断熱性などへの不安を感じている方も多い。実際にここに来て体感してもらうのが一番」と話す。
同団体は同ハウスを「コミュニティーを生む場」としても位置付ける。8月のお盆休みには同地区出身者の同窓会会場として使われた。9月には家づくり講座を予定する。「講座をきっかけに古民家を訪ねる人が増え、空き家活用に関心を持ってもらえれば」と北山さんは期待を込める。
「横浜地区出身で、今は敦賀の街なかに住んでいる方が『自分の故郷はずっとだめな土地だと思っていた。でも、こういう場所があるなら戻ってきてもいいかな』と言ってくれた」と北山さんは顔をほころばせる。かつての医院がそうだったように、同ハウスにも地域住民からの熱い視線が注がれる。
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