昨年12月31日放送の「第65回NHK紅白歌合戦」で、福井県越前市の「越前和紙」でつくられたステージ衣装が登場した。
演歌歌手水森かおりさんの衣装を、世界的ブライダルファッションデザイナー桂由美さんがデザインした。桂さんは約15年前、衣装生地としての和紙の可能性に着目。2002年のローマ・オートクチュールコレクション(伊)を手始めに、越前和紙を使ったドレスなどを発表している。昨年1月のパリ・オートクチュールコレクション(仏)では越前和紙の折り鶴をステージ装飾に取り入れた。
NHKから桂さんに依頼があったのは昨年12月上旬だったという。「白から赤へクイックチェンジさせたいと聞き、白い衣装全体を花でうずめることを考えた。ダンサー衣装の一部として使うため、花の高さも考える必要があった」と桂さん。布でなく和紙を選んだのは高さを低く抑える狙いから。桂さんによると「直径30センチの花なら、布の5分の1程度まで高さを抑えられる」という。
桂さんの事務所スタッフが和紙フラワーの作り手をネット検索し、生花店「華・魅せ・ギャラリィ あいりぃ」(鯖江市吉江町)のホームページに行き着いたという。同店では越前和紙でつくるオリジナルウエディングブーケを扱う。マネジャーの五十嵐純子さんが「願ってもない大きな仕事でうれしかった。約400個という数は未経験だったが、自分一人で100個つくったこともあり不安はなかった」と制作を引き受けた。
実制作に充てられる日数が約1週間だったため、フェイスブックを通じてサポーターを募集。和紙産地の女性でつくる「越前女紙(めがみ)倶楽部」や、市民グループ「鯖江市OC(おばちゃん)課」のメンバーなど延べ100人以上が呼び掛けに応じた。1.4メートル×1.2メートルの鳥の子紙600枚を使い、最終的に480個の和紙フラワーを納品した。桂さんは「多くの方の手助けがあって実現した。短い制作期間にもかかわらず、手抜きなくつくってくださり本当に感謝している」と話す。
水森さんは同日21時40分ごろ、持ち歌の「島根恋旅」で紅白のステージに登場。ツイッターでは視聴者が「白衣装、まさか人間だったとは」「白の人体ドレスからの巨大化赤ドレス。山中教授もビックリ」「お花づくり、ちょこっと関わらせてもらいました」などと反応した。歌手の西川貴教さんが副音声で「ホイップクリームみたい」「人まで含めて衣装なんですね」とコメントする一幕もあった。
「人の手で漉(す)かれた紙に命が吹き込まれ、花となり衣装となった。そして、番組を見た地元の方が誇りに思ってくれた。いろんな方と越前和紙への愛が共有でき感動している」と五十嵐さん。「今回のプロジェクトを足掛かりに、和紙フラワー制作を地域の内職産業として確立させたい。初心者向けのキット販売や資格制度にもつなげられれば」とプランを描く。