福井・大野の越前おおのまちなか交流センター(大野市明倫町)で10月11日、「市民所有の絵画展」が始まる。
同市市制施行60周年記念イベント「ゆいのくにまつり ~結の故郷発祥祭~」の一環。同市在住の美術愛好家など13人で構成する絵画展実行委員会が企画し、およそ1年の準備期間を経て開催にこぎつけた。
展示作品は123点。出展作家は、靉嘔(あい・おう)、ミロ、草間彌生、瑛九、シャガール、岡本太郎、ピカソ、小野忠弘、池田満寿夫などそうそうたる顔ぶれが名を連ねる。全て同市内の個人や公共施設などが所有する作品で、久しぶりに「蔵出し」された作品もある。
多くの作品が同市内に点在する理由の一つに、1950年代の美術教育界で起こった「創造美育運動」がある。「美術を通して子どもの想像力を健全に育てる」を趣旨とした同運動。同運動に熱心な地元の美術教師を介して多くの絵画が同市内にもたらされた。
これに呼応して「小コレクター運動」も起こった。アートとは縁遠かった一般市民が、お金を持ち寄って無名の新進作家を継続的に支援する。作家はお礼として支援者に自身の作品を渡していく。同展展示作品の多くは、これら一連の活動を通じて個人宅などに飾られたものだ。
一方、当時のムーブメントを知る人は少なくなった。企画に関わった同市生涯学習課の亀谷聡美さんは「運動で作品を手に入れた人の多くは高齢となった。亡くなる方も増えている。作品の価値が遺族に伝わらないまま処分される危機感があった」と話す。
購入者を記した当時の資料が作品発掘の手がかりだった。「名字しか書かれていないものもあり人づてに個人宅を絞り込んだ。いきなり借り出すわけにもいかず、一つ一つの場所に何度も足を運んだ」。亀谷さんは「所有者との信頼関係が同展実現の鍵だった」と振り返る。
日本名水百選の御清水、日本百名山の荒島岳など自然環境に恵まれた同市。亀谷さんは「自然に囲まれた暮らしを送る人々が、風景画でなく抽象画を支持したことに驚く。展示を通して大野市民の進取の気性を感じてもらえれば」と呼び掛ける。
開催時間は9時~17時(金曜は20時)。入場無料。今月26日まで。