「内湯の宿 おおとく」を現地視察し、インバウンド受け入れを助言する副業プロの小野さん(右)と石岡さん(中央)。左はおおとく営業担当の山本さん=坂井市三国町安島の「おおとく」レストラン棟で
地元10事業者で始動 副業プロ現地訪れ助言も
福井県坂井市は、本年度から首都圏で活躍する「副業プロフェッショナル人材」を、市内の中小企業などの経営課題の解決に生かす「副業プロ人材活用支援事業」に本格的に取り組んでいる。本年度は事業参加に手を挙げた地元の繊維、造園、民宿業などの10事業者が、順次“その道のプロ”とのマッチングが決まり、この秋以降プラン構築や課題解決のための協議など動きが活発化している。10月29日には同市三国町の民宿に、副業プロ2人が視察に訪れ、インバウンドの誘客のコツを助言してもらった。市内の事業者は、人手不足問題をはじめ、難航する新規事業展開、DX(デジタルトランスフォーメーション)の遅れによる業績不振など、地方ならではのさまざまな課題を抱えており、市は来年度以降もこの事業を展開予定で、「効果的な課題解決によって、企業の成長に結びつけてほしい」と積極的な活用を呼び掛けている。
「いやあ~ 素晴らしい。日本海は目の前でロケーションは最高だし、越前がにをはじめとした海の幸は豊富だし…これだけ集客のコンテンツがそろっているんだから。単に彼ら(外国人)に知られていないだけですよ」。
日本海の名勝、柱状節理の崖や奇岩で知られる東尋坊に程近い坂井市三国町安島で、日本海に突き出たような緑の孤島「雄島」を眼前に、宿泊棟とレストラン棟を備える民宿「内湯の宿 おおとく」(大徳真一社長)。ここを訪れたインバウンド誘客の副業プロ、小野秀一郎さん(50)と石岡哲
郎さん(44)は、初めての地だったが、「おおとく」の立地環境に満足そうだった。特にタイのバンコク在住の石岡さんは、たまたま富山への帰省途中での視察だっただけに日本海の風景に感無量の様子で、「陸地と雄島をつなぐ赤い橋や鳥居…日本好きのタイ人は、こうしたいかにもニッポン、という風景が好きなんですよ」と指摘した。
2人を「おおとく」に結び付けたのは、坂井市の「副業プロ人材活用支援事業」で、昨年度に試験的に導入した。坂井市が委託契約した「(株)カルビン」(東京都港区 代表取締役・東慶親)は副業プロ人材活用を通じて、地方創生に取り組むマッチング支援事業者。
同社は国内の主要副業求人メディアと業務提携しており、求人票による応募の中から、地元事業者とともに副業プロを選考してマッチング、事業者を伴走支援しながら課題解決プロジェクトを推進する。今年度は、市が選定した10事業者が、副業プロとのマッチングを経て、順次、オンライン面談するなど課題解決に着手している。
「おおとく」の場合、雄島という風光明媚なロケーションを抱えながらも「北陸新幹線の敦賀開業による観光客数のアップは、ここ三国までは届いていない」(大徳社長)と開業効果はまだまだと感じていることから、インバウンド獲得に本腰を入れようと今回の事業に手を挙げた。
小野さんは、観光コンサルタント業としても実績があり、同じ福井県内のあわら温泉旅館などのインバウンド対策なども手掛けるプロ。一方、石岡さんは20年ほど前からタイに在住し、5年前からタイ人旅行客の日本行きの斡旋なども行っている。2人とも坂井市の民宿業に対して、インバウンド対策に取り組むのは初めてだが、レストラン棟や宿泊棟の見学や周囲の自然や環境の様子などを丁寧に視察、さらに近辺でどんな体験ができるかなど、細かくスタッフから情報を収集していた。
小野さんは館内の「案内表示」に英語や中国語などがないことを指摘したほか、「海外客はあまり大浴場に慣れていないので、浴室付き個室は優先的にインバウンド向けにしたらどうか」、「外国人が見る観光サイトで、雄島、東尋坊が紹介されるページのそばに、周辺の宿泊施設として、『おおとく』を載せることが大事」などの誘客ポイントを助言していた。
「おおとく」営業担当の山本佳雄さん(60)は「越前がにシーズンはそれなりに客も多いが、オフシーズンの春から夏、秋にかけてのお客をどうつかむか、経営戦略のひとつとしてインバウンド誘客を考えている。小野さんからは早速、英語版のホームページを用意すべきなどの助言をもらっている…せっかくの貴重なプロの助言だけに、2人から提案をしっかりと今後の経営に生かしたい」と話していた。
副業プロ人材の助言 「県内では得られなかったかも」
坂井市の農村部、坂井町長屋の集落の中にあるパン店「ぴんぽんぱん」(小林志穂里代表)では、小林さんが店舗兼製造所の奥のスペースで、スマートフォンを片手に、並べた商品のパンを吟味しながら撮影していた。「実はうちのパンを全国で売りたいと思って、ECサイトは立ち上げたんですが、サイトに載せる写真撮影の仕方にもコツがあって、それを兵庫県の副業プロからいろいろアドバイスをもらったんです」と小林さん。
パンをどの方向から、どのように撮影すると美味しそうに見えるか、PCに届いた参考写真を見ながらの撮影なので、商品にじっとレンズを向けていたかと思うと、振り返ってモニター画面を見たりと、あれこれ思案しながら作業だった。実際に本番撮影するのは、県外のカメラマンなのだが、小林さん自身も「イメージをつかんでおきたい」との思いで、自身も撮影しているのだという。
2017年に、米粉と福井県産小麦を原料に、地元食材へのこだわりやアレルギー対策など安全性を重視してパン店をオープン。しかし
「坂井市は県内有数の米どころ。その坂井の米を使って、こんなにおいしく、安心なんだ、と言われる米パンをつくりたい」との強い信念で、製造所兼店舗を新築、オーブンなど製造機器を新たに整え2023年に再出発。さらに、冷凍したパンを全国を相手に販売する、との構想で瞬間冷凍機も導入し、「全国の消費者の心に響くECサイトを立ち上げたい」と不慣れな分野に不安を覚え、市の副業プロ人材活用支援事業に応募した。
マッチング支援事業者「(株)カルビン」のサポートのもと、数多くの応募の中から、小林さんが思い描く副業プロとして兵庫県在住のECマーケティングの専門家とのマッチングが成立。小林さんは「この人は単にECサイトのデザインだけでなく、私が消費者にアピールしたい思いをちゃんとサイトに落とし込むようにイメージ化できる人。きっと、その先の展開もフォローしてくれる」と“意中の人材”に出会ったと語る。
オンラインのやりとりが2週間に1、2度のペースで進み、課題と感じるタスク表に的確なアンサーを送ってくれるなど、現時点で「ECサイトづくりは着々と進んでいる」と冷静に語る。
原材料選びはもちろん、製造法にも“強いこだわり”があり、主力商品のひとつ、ポン菓子の製造機はわざわざオランダ製を購入するほど。新店舗では「米粉パンは、どうしてもいやな臭いが残る」として米粉をやめ、生のコメを水に浸したあと、ミキサーで生地にして発酵させる「生米パン」に切り替えた。そのせいもあって、ほどよい甘味も残り、食パンや地元産の野菜を練り込んだパンも生まれ、そこそこ店頭で売れる定番商品も増えた。そこでの次の一手がECサイトでの全国販売だった。ただし、ECサイト立ち上げに「まったくノウハウがない」と思っていただけに、坂井市の同事業は「渡りに船」だったという。
連日、契約した副業プロとPC画面越しの面談が続く。小林さんは「ECサイトをどう立ち上げるか手探りでした。県内だけで模索していたら、こんな質の高い指導をしてくれる方に出会わなかったかもしれない。いいアドバイスはもらっていると思っているけれど、全国でもおいしくて、とても安全と言ってくれるパンがちゃんと作れるかどうかは、自分自身の腕にかかっている」と新たな展開に心を躍らせている。
この2社以外の事業者でもそれぞれ、「(株)カルビン」の支援を通じた副業プロとのマッチングが終わり、オンラインによる打ち合わせや現地視察を経た改善プランの提示などが次々に進んでいる。坂井市では来年度も同様の事業を展開する予定で、新たに地元の参加事業者を募ることにしている。
参考情報
坂井市には、他にも福井県が誇る観光地や食が多数あります。その一部を下記にてご紹介いたします。
<自然>
越前加賀海岸国定公園に含まれる越前松島などの美しい海岸線、九頭竜川や竹田川、市東部の森林地域、福井県一の米どころを支える広大な田園など、豊かで美しい「海・山・川」の自然に恵まれています。
東尋坊断崖に日本海の荒波が打ち寄せる景色で知られる国の天然記念物・名勝東尋坊。約1キロメートルにわたり豪快な岩壁が広がっています。このような輝石安山岩の柱状節理が広範囲にあるのは、世界に3ヵ所ともいわれ、地質学的にも大変貴重な場所です。初夏のまばゆいばかりに広がる青い空と日本海、秋の頃の日本海に太陽が沈み行く夕景、雪が舞う頃の荒々しい波と吹きつける寒風。どれも東尋坊と日本海の大自然が見せてくれる、四季折々の素晴らしい風景です。
越前松島東尋坊と同じ柱状節理の岩が織り成す景観の中、一風変わった岩が点在するほか、散策路を辿ると小島に渡ることができたり洞穴を覗くこともできます。越前松島水族館や宿泊施設が隣接し、家族連れや遠足でにぎわう観光地となっています。
<観光地>
日本屈指の景勝地である東尋坊、三国サンセットビーチを中心とする海岸、北前船交易で栄えた三国湊、現存12天守の丸岡城をはじめとする歴史資源があります。
三國湊三國湊は、福井県一の大河「九頭竜川」の河口に位置します。千年以上昔の文献にも「三国」という地名の記述があるほど昔から栄え、歴史がある町です。北前船が残していった歴史・文化はもちろんのこと、格子戸が連なる町家、豪商の面影が残る歴史的建造物など、情緒ある町並みが残ります。
丸岡城丸岡城は別名霞ヶ城とも呼ばれ、平野の独立丘陵を利用してつくられた平山城です。春の満開の桜の中に浮かぶ姿は幻想的で、ひときわ美しいものとなっています。戦国時代の天正4年(1576年)一向一揆の備えとして、織田信長の命を受けて柴田勝家の甥・勝豊が築きました。標高27mの独立丘陵を本丸として天守を築き、その周囲に二の丸と内堀、その外側に三の丸と外堀を巡らせていました。
丸岡城天守は、江戸時代以前に建てられ当時の姿で現在まで残っている現存12天守の1つです。昭和23年の福井地震により石垣もろとも完全に倒壊しましたが、天守の材料や石垣などの主要部材の多くを再利用して昭和30年に修復修理されました。
現存12天守の中で、完全に倒壊した状況から修復された天守は唯一丸岡城天守のみです。現在立ち続けている古式の風格のある姿は、消滅の危機という困難な道のりを経ても立ち上がり復興してきた証であり、その歴史は他にはない波乱の運命を歩んだものです。
雄島その自然は未だかつて人の手が加えられていない神の島。
伝説のある島全体は自然豊かな散策路としても親しまれています。島の奥には大湊神社がたたずみ、毎年4月20日は地区住民による大湊神社の例祭が行われます。
<食>
福井県における冬の味覚の代表である「越前がに」をはじめとする水産物、そば、らっきょうなどの農産物、山菜、油揚げ、若狭牛など、食を活かした観光が魅力です。
越前がに毎年皇室へ献上される事でも有名な三国町の「越前がに」は、身は殻の中によく詰まっていて、甘く繊維が締まっており、数に限りがあるため、特に珍重されています。
甘えび甘えびは、越前がにと並んで人気の高い日本海の珍味。三国漁港にも透き通るような紅色をした、たくさんの新鮮な甘えびが並んでいます。
丸岡産おろしそば坂井市は県内1・2を誇るそばの産地で、特に丸岡産のそば粉で作ったおろしそばは香り高く、風味が強い飽きない仕上がりとなっています。
<文化・伝統>
ファッションなどのブランドネームや品質表示などの織ネーム、国内第1位のシェアを占めるマジックテープなど伝統的な技術産業が盛んです。
越前織:ネームタグ丸岡は織物の一大産地で、ワッペンやスポーツ用ネームとして用いられる「織ネーム」は需要が高まっており、また、コンピュータで図柄処理し織物として描画する「越前織」も観光の土産等向けに作っています。主要製品は洋服に施すネームタグで、国内シェア7割を誇ります。
一筆啓上 日本一短い手紙の館丸岡町ゆかりの徳川家康の忠臣本多作左衛門重次が陣中から妻に宛てた短い手紙「一筆啓上 火の用心 お仙泣かすな 馬肥やせ」(「お仙」とは後の越前丸岡城主 本多成重(幼名 仙千代))の碑が丸岡城にあります。この碑をヒントに日本で一番短い手紙文を再現し、手紙文化の復権を目指そうということで、平成5年から毎年テーマを定めて「一筆啓上賞」として作品を募集し、平成15年から「新一筆啓上賞」として、日本全国、海外から応募が寄せられています。